March 27, 2010

『Happy Wardrobe』応援中

 タイトル
 Happy Wardrobe
 メーカー
 Shallot
 発売日  2010年3月25日
 原画  笹弘  シナリオ  なかひろ
 評価
 77点(100点満点中)

あかべぇそふとつぅの新姉妹ブランド「Shallot」のデビュー作は
学園の演劇部を舞台にした恋愛ADV。ただし、ADVではありますがADVゲームかっつーと・・・
シナリオライターなかひろ氏による読み物、ですね。
とかくなかひろ氏のシナリオとキャラクターだけが飛び抜けて出来がいいです。
とは言っても大げさな感動とか大それたものはないので、あくまで学園モノとして、ですが。
しかし困ったことにそれ以外の要素がけっこー微妙。結果として、佳作ではありますが
良作と言うには作品として全体の調和が取れてない惜しい作品でした。

以下長文感想。 (3/27 23時 若干の加筆修正を追加)


1も2もなく本作最大の美点はシナリオ、およびキャラクターを描ききった
ライター・なかひろ氏の独壇場の作品であったと言えるでしょう。
ちなみにルートはそのままヒロインの数だけ5ルート。ボリュームは共通が6時間くらいと
個別が3時間くらい×5で20時間そこらの平均的だけどプレイしやすい感じです。
ちなみに冒頭でゲームというより読み物、といったのは、ぶっちゃけ
選択肢が作中たった一箇所しかない(微ネタバレ反転)からでもあります。

ライターの過去作である「星空のメモリア」ほどのラブコメ的なポップさは強くなく、
「こいとれ」ほどテーマにどっしりと重みを据えている、わけでもなく。
なんと言いましょうか、5人のヒロインによる5つの恋物語を、演劇部という地盤を元に
とても普通に、だけど「物語」として描いた作品だった、というのが漠然とした感想です。
とにかく良かったのは作品全体を通した大きいけど縛りの緩いテーマと
キャラクターごとの気持ちや足元がどちらもほぼブレることなくバランスよく描かれている事でしょうか。
当たり前のようで難しいこの点がしっかりしているため、メインヒロインとなる爽乃先輩や
体験版時点で早くも山場のあるフク等共通ルートで待遇に差がある割に、5人のルートの面白さに殆ど差がなく
それでいて5人のルートがちゃんと胸に残るひとつの物語になっており、また最後に、全てのルートが
ひとつの「Happy Wardrobe」という作品でもあった、という構成の安定した完成度は素晴らしいものでした。
また、演劇、コスプレ等々、私含め多くの人が詳しくはないジャンルについて、そういう人に対して
納得させるだけの、ゲームプレイに必要十分ほどほどの知識をわかり易く埋め込んでいるので
作品の説得力がしっかりしているのも非常に良かったと思います。

キャラクターのつくりも変な飾り気や媚びが殆どないので最初はパっとしませんが、個別ルートに入ると
キャラそれぞれが個性に基づいた様々な等身大の魅力を間断なく発揮するので
全部終わってみるとどいつもこいつも可愛かったなぁ、といい余韻に浸れます。スルメ系ですね。
心情推移の描写も見事です。不自然さは殆どなく、引き込まれるような感情の発露は流石なかひろ氏の一言。

強いてシナリオ系に文句をつけるとすれば、ヒロインとの恋愛関係が確立するまでの過程を重視しており、
またその過程においても、恋愛は副次的な要素で主軸となるヒロインそれぞれのテーマの方が比重が重いため
いちゃらぶが割と薄めで、かつ確立後の終盤展開が駆け足で展開が読みやすい点でしょうか。
どのルートも物語として見ると仕方ないと納得はできるのですが、果たしてエロゲーとして、また
今のニーズとして正しいか、と言われるとちょっと首を縦には振れないかな、というのが残念でした。


さて、で、ここからはほぼ苦言。あんまりこういう言い方したくはないのですが
明らかにシナリオとそれ以外の要素が釣り合っておらず、評価を下げています。
特に言えるのは演出。システム的なものだけではなく、話により引き込ませるための
だいたいの要素がいまひとつだったと言えます。

システムグラフィック。体験版の時点から判っていたことですが、やはり微妙。雰囲気はいいものの野暮ったい。
ある意味この野暮ったさもまた作品が学園モノである=学生の拙さをあらわしている、と言えば
それっぽいかもしれませんが・・・センスがないというよりはデザインした人が経験不足なイメージですね。
システム自体の項目等は過不足ない程度のものです。これは想像していた通りなので特に文句無し。
とは言えこの点はそもそもプレイしている上で自己主張が強いわけではないので
そこまで気にする必要はないのかもしれませんが・・・。

エフェクトや効果。カットインとホワイトアウトくらいしか存在せず、キャラを彩る演出も存在しません。
内容的に無理にコミカルにする必要性はないので悪いとは言いませんが、かといって流石に味気なさすぎか。
特に個人的には劇中劇で何がしか仕掛けを入れるかなと思っていたのですが、いざ蓋を開けてみれば
確かに常態とは違う演出があるものの演出というにもどうかというくらい大したことないものなので拍子抜け。
カットインも今が何月かという表示と、ルートに入るまでは月ごとの固定絵、入ってからは攻略キャラの立ち絵で
変化も月ごとにしかない簡素なもので、これまたデザインも野暮ったい。加えて自己主張させないようにか
イン→アウトも早いのですが、それがまた目まぐるしさになっていて逆効果。それでいて
シリアスな状況で日を跨ぐ時等でも容赦なく入ってくるので、場面によってかなり水を差され、非常にイマイチ。

そしてBGM。演出で何が一番ダメだったかと言えばこれだったかもしれません。
曲単品で見れば、出来自体は平均より少々下な程度で作品や雰囲気に合ってないわけではないのですが
特に後半、シリアス場面における選曲および挿入タイミングがとにかくしょっぱい。
場面続き、カットイン跨ぎで同じ曲流しっぱなしの所も多く、いっそ無音の方がマシでは、と思う点すら多々。
話にのめり込んでいても「あれ?」と思ってしまう、本作最大の雰囲気ブレイカーです。

あ、主題歌だけは流石にBarbarian on the Groove×榊原ゆいだけあっていい曲です。
音楽で褒められる唯一の点。

最後に絵。絵自体は好みがあると思うのであまりどうこうは言いませんが
間違いなくよろしくないのは立ち絵とCGの塗りのあまりにもあまりの差。いくつかのイベントCGを除き
完全に塗り方が違うので、イベント絵が表示されたときの違和感はかなりのもの。
また、「衣装」が作品の根幹に絡んでいる故に、劇中劇や季節を意識した立ち絵の「衣装パターン」は
確かに多くて楽しめるのですが、その分「ポーズパターン」がとても少ないので、
場面ごとに切り取った時の変化が乏しく、衣装の分の楽しさのアドバンテージが若干相殺されてしまいます。
それでも立ち絵自体が豊富であることは間違いないのですが・・・あと、この豊富さが故に
上述したイベントCGとの塗りの差があるのかもしれません。立ち絵の塗りの方が簡略的なので。
あと、衣装のセンスもあまり良くないです。いいものもいくつかはあるのですが・・・大抵垢抜けないです。
主人公が服飾の才能持ちである、という点を殺さないためにその他の衣装と差をつけようという努力も
見てとれますが、しかし残念ながら主人公の作った服もまた言うほど洗練されてはいません。

また、Hシーンが各ヒロインあたり2シーンしかないため、衣装が多い弊害として、
プレイヤーの「この衣装でのシーンが見たい!」という気持ちが通じる確率が物凄く低いです。
衣装の多さは当初からのアピールポイントとして公式自身が告知していた点であるだけに、
この作品が「エロゲー」である以上この点は見過ごしてはいけない問題でしょう。


要素ごとに語るべきことはこれくらいでしょうか。ちなみに声優に関してはいつも通り多くは語りません。
個人的な話をすればハマリ役の人と微妙な人がいたかなーと思う程度かな。イチオシはゆいにゃん先輩。
しかし、本当に勿体無い作品でした。文句をつけた全てのポイントが業界の及第点レベルであれば
恐らく85点くらいはつけられるような平均以上のシナリオだっただけに残念です。
下手をすると二次元ゲーム文庫やなごみ文庫あたりから本として出した方がよかったかもしれません。

と、どうにも今ひとつな感じでしたが、かといってメーカーの力を全て否定するわけではなく
立ち絵の衣装パターンの豊富さはよくやったと思いますし、(結果はともかくとして)意識的に
なかひろ氏の作品の方向性を極力阻害しないように作られていると思われるのは評価すべき点だと思います。
問題点はどれも「間違い」というよりは実力と時間と予算が「足りなかった」かな、というところが多かったと
思いますので、この方向性のまま地力を上げていって欲しいな、と思いました。

そんなわけで、最終的にいつものまとめとしてこの作品のオススメ層と致しましては、
なかひろ氏のテキストが好きな人、ゲームは半分以上シナリオだ!って人にはそこそこオススメ。
また、学生時代が懐かしくなったり、学生時代に等身大の恋愛とかしたかったなぁ、なんていう
社会人さんにもオススメかも。ボリュームも程ほどですしね。
逆にイマドキのエロゲーらしいエロゲーがしたい、最初から最後までいちゃいちゃしたい!なんて人には
間違ってもオススメできませんのでご注意を。
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